今でも思い出す場面がある。


いつだったか、久しぶりに祖母の家へ姉と泊まりにいった日のこと。
お菓子をたらふく食べ、ひどくおなかがふくれていた。

その日の晩御飯は、すき焼きだった。
2人のために美味しいお肉を買ったのよと
まだ元気だった頃の祖母がにこにことしていた。


お肉は、ほとんど食べられなかった。
ばあちゃん独りじゃ、食べられないよと
祖母は困ったように笑った。




あの日のことを、ふとした瞬間思い出す。
祖母に悪いことをしたという罪悪感を
今でもはっきりとひきずっている。

あれから何年も月日がたって
今では、寝たきりになり、しゃべれなくなった祖母が
薄暗い病室で寝ている。

体が不自由になって、一緒に過ごしたとき
どうしてもっと優しくしてあげなかったのだろうとか
老人ホームにはいってからも、もっと遊びにいけばよかったのにとか
色んな罪悪感の中で、
あの日、祖母が私達のために買ってくれた牛肉を
全部食べれなかったことが、
なぜだか一番胸の奥底でうずいて離れない。




祖母の、私達を喜ばせたいと想ってくれた気持ちの塊を
たいらげることのできなかった自分に対する気持ちが
胸の底にこびりついて離れない。